大学院研究

aCL/β2GPI and aPS/PT showed synergic thrombogenic effects in suppressing APC's anticoagulant activity and stimulating tissue factor expression and TNF-α secretion by mononuclear cells

Abstract
Introduction: Patients with systemic lupus erythematosus (SLE) possessing anti-phospholipid antibodies (aPLs) are often complicated with thrombotic vascular events. aPLs commonly associated with the complications are anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies (aCL/β2GPI), anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies (aPS/PT). However, the pathological mechanism leading to the thrombosis remains unclear. We explored the clinical features of SLE patients with aCL/β2GPI and aPS/PT, and investigated thrombogenic effects of their IgG fractions.
Materials and Methods: We enrolled 97 SLE patients and 38 healthy control volunteers and performed activated protein-C (APC) resistance screening test using their plasma samples. For detecting the direct effect of aPLs IgG on APC, we developed an APC‒sensitivity ratio assay. Effects of aPLs IgG on monocytes were studied by measuring the surface expression of tissue factor (TF) and excretion of TNF-α from peripheral blood mononuclear cell culture.
Results and Conclusion: Thrombotic complications among SLE patients were closely associated with aCL/β2GPI or aPS/PT, with higher prevalence in patients with both antibodies. Addition of aPLs(+)-IgG to APC‒sensitivity ratio assay led to significant suppression of anti-coagulant activity of APC. The suppression was more pronounced in double positive cases. TF expression on monocyte and the concentration of TNF-α in culture medium were increased by aPLs, again more pronounced in double positive cases. These results indicate that the effect of aCL/β2GPI and aPS/PT are synergic both for APC's anticoagulant activity and for the production of TF and TNF-α from mononuclear cells. These modes of thrombogenic action of aPLs could be an important target for developing a specific measures to prevent the complications.


抗リン脂質抗体症候群における血栓症発症機序の解明

学位論文内容の要旨

【目的】抗リン脂質抗体症候群(APS)は,血液中に多種多様な抗リン脂質抗体(aPLs)が出現することにより,多彩な合併症を呈する自己免疫性血栓塞栓性疾患である.APSの最大の特徴は,静脈・動脈を問わずに血栓塞栓症を繰り返し発症することである.これまでの研究から,aPLsは認識するエピトープの違いから幾つかのタイプが存在し,その中でも抗カルジオリピン/β2グリコプロテインⅠ 抗体(aCL/β2GPI)と抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(aPS/PT)が臨床的に重要であることが知られている.本研究では,静脈血栓症と動脈血栓症の発症機序の違いに着目し,aCL/β2GPⅠとaPS/PTの血栓形成作用を凝固系に対する作用と細胞系に対する作用に分けて検討した.

【方法・結果】(1)aPLsによる活性化プロテインC(APC)系凝固制御機構に対する抑制作用:SLE患者97名を対象とした臨床研究により,APCの抗凝固活性に抵抗性を示すAPCレジスタンス症例を26例の患者(aPLs陰性4例 vs. aPLs陽性22例)で確認した.さらに原発性APS(n=20)では全例がAPCに対する抵抗性(+)であり,APCレジスタンスの病因にaPLsが関連していることを見出した.そこでSLE患者血漿より純化・精製したaCL/β2GPI(+)・aPS/PT(+)-IgG: 4例とaCL/β2GPI(-)・aPS/PT(-)-IgG: 4例を用いて,APC-sensitivity ratio測定系にてaPLsがAPCの抗凝固活性を抑制するか検討した.その結果,aCL/β2GPI(+)・aPS/PT(+)-IgGでのみAPCに対する強力な抑制作用を認めた.さらに,aPS/PTモノクローナル抗体を用いて同様の検討を実施した結果, 添加した抗体の濃度依存的にAPCに対する阻害活性が認められた.一方,aCL/β2GPI単独陽性患者血漿2名より純化・精製したIgG1・2を用いて検討を行った結果,IgG2でのみ高濃度領域でAPCに対する有意な阻害活性を認めた.

(2)aPLsによる単球活性化作用:健常人単核細胞培養刺激実験系にてaCL/β2GPI(+)・aPS/PT(+)-IgG:4例,aCL/β2GPI(+)・aPS/PT(-) -IgG:2例,aCL/β2GPI(-)・aPS/PT(-)-IgG:1例,およびaPS/PTモノクローナル抗体を各々添加し,6時間培養後の単球表面TF発現量および培養上清中TNF-α産生量を比較検討した.その結果, 無刺激に比較して, aCL/β2GPI(+)・aPS/PT(+)-IgG刺激でTF発現率が10.47~30.24倍,TNF-α産生量が5.3~33.0倍に増加,aCL/β2GPI(+)・aPS/PT(-)-IgG刺激でTF発現率が7.52~7.95倍,TNF-α産生量が2.1~2.7倍に増加した.一方,aPS/PTモノクローナル抗体刺激ではTF発現率は4.76~6.48倍に増加したが,TNF-α産生量の増加は認められなかった.

【考察】これまでの臨床研究から,APS患者血中には多種多様なaPLsが出現し,その中でもaCL/β2GPIとaPS/PTが共に陽性の症例で動・静脈血栓症の発症率が明らかに高いことを報告してきた.本研究で,aCL/β2GPIとaPS/PTが共存することにより,APC系凝固制御機構が強力に抑制されること,更には単球からのTFおよびTNF-α産生が増幅されることを明らかにした.APC系凝固制御機構に対する抑制作用は,主に静脈血栓症の発症に関連していると推測される.一方,TFおよびTNF-αの産生促進作用は,動脈・静脈問わず血栓形成の中心的な役割を担っていると考えられる.本研究成果は,APSの病態解明のみならず新規治療法の開発にも繋がる知見である.


抗リン脂質抗体症候群における血栓塞栓症発症機序の解明と検査診断の向上に関する研究

学位論文内容の要旨

【背景・目的】抗リン脂質抗体症候群(APS)は抗リン脂質抗体が出現し,動・静脈血栓症や習慣性流死産を呈する自己免疫性血栓塞栓性疾患である.中でも,動脈血栓症は発症率が高く,一般的な血栓症とは異なる機序の存在が考えられ,近年,抗リン脂質抗体と組織因子(TF)の関係が注目されている.また,APSの検査診断は抗リン脂質抗体の検出が必須であるが,現行の検出法では多数のAPS症例が見逃されている可能性がある.本研究では,抗リン脂質抗体の血栓形成作用を検討するとともに,抗体の種類別に測定系を確立し,APSの臨床病態に関連の強い抗体を明らかにすることにより,検査診断の向上を目指す.

【方法】SLE患者を対象に,TF発現単球の割合と閉塞性動脈硬化症(ASO)および抗リン脂質抗体価との関連を解析した.また,抗リン脂質抗体陽性IgGの単核球への添加実験を行い,TF発現および炎症性サイトカイン産生に対する作用を検討した.さらに,8種類の抗リン脂質抗体を検出するELISAを確立し,各種抗体とAPS合併症との関連を解析した.

【結果】単球表面TFの高発現は,ASOおよび抗リン脂質抗体の有無と関連していた.また,抗リン脂質抗体は単核球のTF発現と炎症性サイトカイン産生を惹起した.抗体別に合併症との関連をみると,aβ2GPⅠおよびaPS/PTが動・静脈血栓症や血小板減少症,aCL/β2GPⅠは習慣性流死産の発症リスクとなることが示唆された.

【考察・結語】APSの動脈血栓症発症には,抗リン脂質抗体が惹起するTF依存性血栓形成と炎症反応増幅の関与が示唆された.また,APS検査診断にはaβ2GPⅠおよびaPS/PTの測定意義が高いと考えられた.APSの多彩な病態は,複数の抗リン脂質抗体が持つ様々な作用が絡み合って形成されると考えられ,抗体別の詳細な作用解明がAPSの診断・治療に寄与すると期待できる.


全身性エリテマトーデス患者における単球走化活性化因子(MCP-1)濃度と抗リン脂質抗体および血栓性合併症発症との関連

学位論文内容の要旨

背景と目的:全身性エリテマトーデス(SLE)では、動脈硬化症に起因する脳血管障害や虚血性心疾患は死因の上位を占める重篤な合併症であり、その発症機序の解明は極めて重要である。我々は、これまでの研究で、SLE患者で効率に検出される抗リン脂質抗体が、単球の組織因子(TF)発現や炎症性サイトカイン産生を亢進させ、TF依存性血栓形成とサイトカイン誘発性炎症反応の相乗効果により動脈血栓塞栓症を発症させることを明らかにした。しかし、TF発現による動脈血栓形成は最終段階のイベントであり、その前段階として、炎症部位への単球の遊走や内皮細胞への接着・浸潤、さらには細胞の活性化など、抗リン脂質抗体による慢性的な一連の作用が存在すると推測される。本研究では、それらのプロセスに深い関わりをもつ単球走化活性化因子(MCP-1)に注目し、SLE患者を対象に血中MCP-1濃度と血栓塞栓性合併症発症との関連性を統計学的に解析すると共に、In vitroの培養細胞刺激実験にて、抗リン脂質抗体が単核球によるMCP-1の産生にどのような影響を及ぼすか検討した。

対象:SLE患者160症例(女性150名、男性10名、平均年齢27.2歳[19-82歳]):動脈血栓症群33例、静脈血栓症群37例、習慣性流死産群13例、上記合併症の発症を認めなかった無合併症群77例を対象とした。

方法:SLE 160症例を対象に血中MCP-1濃度をELISAにて定量し、各種血栓性合併症発症および抗リン脂質抗体出現との関連性を統計学的に解析した。さらに、SLE患者血漿より純化・精製したIgG 抗体(APS-IgG:4例、non APS-IgG:4例)、および231Dキメラモノクローナル抗PS/PT抗体を用いて、正常単核球培養細胞を至適条件にて刺激した後、細胞MCP-1mRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法にて定量、培養上清中に分泌されたMCP-1濃度をELISAにて測定した。

結果:SLE 160症例を対象とした臨床研究において、動脈血栓症合併群・静脈血栓症合併群・習慣性流死産合併群の全てで、無合併症群に比較し、血中MCP-1濃度が有意に高値を示した。一方、抗リン脂質抗体の存在と血中MCP-1濃度の関連では、抗リン脂質抗体陽性SLE群で陰性のSLE群に比較して血中MCP-1濃度が有意に高値であった。さらに、In vitroの実験系において、non APS-IgG刺激(n=4)に比較してAPS-IgG刺激(n=4)では、単核球のMCP-1 mRNAの発現増幅と培養液中へのMCP-1の産生増加を認めた。さらに、抗PS/PT抗体のキメラモノクローナル抗体231Dを用いて、同様の実験を行った結果、単核球のMCP-1 mRNA発現増幅および培養上清中へのMCP-1産生増加を確認した。

考察: 本研究では、抗リン脂質抗体が単独で単核球からのMCP-1産生を促進させることを見出した。さらに、臨床研究からSLE患者の血中MCP-1濃度の増加が動脈血栓症,静脈血栓症、習慣性流死産の発症と強く関連していることを明らかにした。SLE患者では、種々の自己抗体や炎症反応による慢性的な刺激により単核球や血管内皮細胞が活性化されやすい状態にあると推測される。加えて、抗リン脂質抗体が存在することにより血中MCP-1濃度が増加し、「単核球が炎症部位へ集結→内皮細胞へ接着・浸潤→単球の泡沫細胞化」など一連の動脈硬化病変形成プロセスが惹起される可能性が示唆された。




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